サメ革とは?特徴と魅力について
最終更新:2024年8月7日(元記事:2014年11月18日)
サメ革とは、鮫(さめ)の皮を鞣す(なめす)ことで生まれる高機能な天然皮革です。
シャークスキン(※スーツなどに使われる生地素材とは別物)・シャークレザーと呼称されたり、鮫革と表示することもありますが、一般的には“サメ革”と表現されることが多いです。
混同しがちな“ サメ革 ”と“ 鮫皮 ”
“鮫皮(サメ皮)”は、音こそ同じですがサメ革とは異なります。
これはツカエイなどの真鮫と呼ばれるエイの背面中央部の皮を乾燥させたもので、ワサビのおろし金や剣道の高級防具(サメ胴)などに使用されます。
表面がざらざらしているためグリップ力が高く、滑り止めとして古くは刀の柄(刀剣の持ち手部分)にも使用されていました。
これら鮫皮にはエイを使うことが殆どですが、一部の鮫皮にはカスザメなど本当にサメが使用されています。
エイなのに鮫皮と呼ばれていたり、はたまた実際にサメを使ったものもあったり、ややこしいですよね。この理由としてサメもエイも軟骨魚類で魚としては原始的なグループに属し、特におろし金などに使う鮫皮の原料となる種は、ぱっと見た感じではエイとサメどちらのグループに属するのか区別がつきにくいことが考えられます(※生物学上はエラの位置で判別。体の側面にエラがあればサメ、体の下にエラがあればエイとなります)。
鮫皮に使われるサメとエイは見た目の類似性から、古くは一括りに“鮫”と呼ばれ、現代まで“鮫皮”という言葉が残ったのではないでしょうか。
…さて、冒頭から盛大に話を脱線させてしまいましたが、ここからは優れたレザーである“サメ革”について紹介していきます。
世界最高品質のサメ革は日本にある
ひとくちにサメ革と言ってもサメの種によって少しずつレザーとしての性質が異なります。但し、いずれの種も共通して堅牢性と防滴性に優れていることは間違いありません。これは過酷な水中を生き抜く魚であるサメの特長を色濃く反映しているといえるでしょう。
そして世界中に数いるサメの中で最高品質のサメ革になるのがヨシキリザメ(葦切鮫、英名:Blue Shark、学名:Prionace glauca)を使用したものです。
とりわけ宮城県気仙沼市で水揚げされるヨシキリザメを使用したものは、世界最高品質と評されています。
気仙沼産サメ革は、世界から認められる日本が誇るべき貴重な国産レザーであり、私たちアトリエシャークが使用するサメ革でもあります。
気仙沼産ヨシキリザメ
世界最高品質のサメ革
皆さんはサメのレザーと聞いて、どんなものを想像しましたか。 多くの人は、サメ肌から連想して「サメ革=何となくザラザラ・ごわごわして重そう」そんなイメージを持たれたかもしれません。 しかし実際は、柔らかな手触りでキズ汚れや水に強く、圧倒的に軽いのが特長です。
なにより繊細な革模様が美しく、見るものを魅了します。天然ものの証である個体差のあるシボ(凹凸模様)は使うほどに艶が深まり、色気が出てきます。
最高にクールなレザー素材。それがアトリエシャークの気仙沼産サメ革です。
特長その1. とにかく軽い
本革を使用した革財布やバッグは重たいのが当たり前と思われがちですが、その常識を覆すのが気仙沼産サメ革です。 牛革と比較するとサメ革は3割ほど軽量な仕上がりになります。
百貨店催事や展示会で出会うお客さまやバイヤーが、財布を手にして一番驚かれるのが軽さです。中には、「何も中身を入れていない牛革財布と、カードやお金を満タンに入れた状態のサメ革財布が同じぐらいの重さに感じる」と言われるお客さまがいるほど。
アトリエシャークではサメ革本来の軽さを損なわないよう、財布などへプロダクト化する際に合わせる副資材の選定や製品の加工方法にも工夫を凝らしています。
特長その2. とにかく丈夫
サメは筋繊維が密集しているため、非常に耐久性の高いレザーに仕上がります。
羊革や鹿革などの軽量レザーは、世界で一番流通するレザーである牛革と比較すると引き裂き強度が低いものも多いですが、サメ革は牛革と同等級の引き裂き強度を有します(アトリエシャークが専門機関へ検査依頼し確認)。
また目に見える傷や汚れにも強いため、爪などで強く引っ掻いてしまっても大きな傷になることが少なく、安心して長く使える丈夫な素材と言えるでしょう。
特長その3. 水濡れに強い
サメ革は多くのレザーが弱点とする水濡れに強い特性をもつ稀有な素材です。
そのため、手汗や水濡れを過度に気にする必要はありません。堅牢性と防滴性を兼ね備えたレザーですので、本革によくある面倒なメンテナンスも不要です。
ラフな使用に耐えるサメ革は、従来の本革のイメージを大きく変えてくれることでしょう。
特長その4. しなやかで抜群の手馴染み
気仙沼産サメ革は、きめ細かい帯縄状のシボ(革表面の凹凸模様)が印象的です。型押しでは表現できない天然モノの美しい革模様は使うほどに色艶が深まり、より一層深みのある表情を魅せてくれます。
また、海外産のサメ革はゴワゴワと硬質な質感のものが多い(使用する種や鞣し方が違うため)ですが、気仙沼産ヨシキリザメのサメ革はしっとりとした気持ちの良い手触りです。この質感は、 日本の職人が最高の素材を熟練の職人技で1枚ずつ手作業でレザーを仕立てるからこそ実現しました。丁寧で実直な日本のモノづくりの息吹が宿ります。
なぜサメ革は希少なのか
高機能だけどメジャーにならない?
気仙沼産サメ革は、ここまでで紹介したように高耐久かつお手入れ不要の非常に優れたレザーです。
しかし、その機能性とは裏腹に、触ったり見かけたりする機会は少ないのではないでしょうか。実はサメ革ができるまでの工程に、サメ革がほとんど市場流通していない理由があります。
ここからは、なぜサメ革は希少で中々お目にかかれないかを解説します。
サメ革が希少な理由
その1. 養殖できない天然モノのため
サメは世界に553種存在 (2020年11月現在) していますが、すべてのサメをレザーに出来るわけではありません。サメ革として広く流通しているサメは20種程度なのです(※日本ではヨシキリザメが大半、海外はカリブ海などを原産とするイタチザメやホホジロザメが多いです)。
これはレッドリスト(絶滅危惧種リスト)に分類されている種の存在や、そもそもサイズや表皮の硬度によっては加工が難しい種がいることが理由です。
何より一番の理由として、サメは牛やワニのように養殖できないことが挙げられます(「キャビアでお馴染みのチョウザメは養殖してるけど?」こんな疑問を持った方もいるかもしれません。でも実はチョウザメはサメではありません。チョウザメは硬骨魚類ですが、サメは軟骨魚類なので種としての系統から大きく異なります)。
フカヒレやカマボコなどの食用魚資源として活用可能で漁獲量が見込める種や、人への被害が大きく定期的に間引かれる種がサメ革になるのです。
サメ革が希少な理由
その2. 加工が難しいため
宮城県気仙沼市で水揚げされるヨシキリザメを日本の熟練職人の手でサメ革へと仕立てる工程は煩雑を極めます。
余談ですが、世界三大漁場の一つである三陸・金華山沖がある宮城県は国内サメ漁獲量の約50%を占め全国シェア1位、そのうち90%以上が気仙沼で水揚げされます (※2021年9月現在の最新データに基づく)。気仙沼は江戸時代から続くサメ文化を守り、持続可能なサメ漁業を現在に至るまで続ける世界有数の“サメの町 ”なのです。
さて、サメ革の加工に話を戻します。
サメ革は牛革などの一般的なレザーにはない工程があります。代表的なのは、表面の鱗(うろこ)を落とす脱鱗(だつりん)と呼ばれる工程です。なんと一枚ずつ手作業で鱗を落としていきます。これを出来るタンナー(皮を革に加工する工場)は日本国内で片手で数えられるほどしかなく、その難易度が垣間見えます。
その他、革表面の凹凸(シボ)に合わせて丁寧に手作業で染色するなど煩雑な工程を経て、温かみのある鮮やかな色と柔らかな質感を持ったレザーが生まれてくるのです。
完成までに一般的な牛革の倍近い時間を要し、加工にサメならではの専門的で高度な手法が要求されることがサメ革が希少な理由なのです。
また私たちの使用するサメ革は、植物性タンニン鞣しという技法を用いています。SDGsの観点から使用する薬剤は100%天然樹液薬品であり、有害なものが出ない環境に優しい鞣しかたです。サメ革として日本国内で唯一、エコレザー認定を受けています。日本では珍しい原料調達から加工まですべての工程を国内で行なう純国産品だからこそ実現しました。
気仙沼産サメ革は仕上がるまでに時間も手間もかかりますが、海外などでよくみられるクロム塩など化学薬品で鞣された革や大量生産を目的に作られるレザーとは一線を画す美しさがあります。
サメ革が希少な理由
その3. 商売の効率が悪いため
天然モノで養殖ができず数が取れない上に、レザーへの加工が難しいため流通量が少ない=自ずとサメ革自体の価格が高くなります。
しかもヨシキリザメは全長1~2m程の中型のサメで、レザーは半身状態での加工となるので1枚の大きさが牛革の1/5程の小さなサイズになります。さらに天然モノで噛み傷や穴があるので、財布などに加工すると1枚のレザーから長財布1本しか作れないことも間々あります。加工する際には面積当たりのレザー単価が高くなりがちで歩留まりが悪く、そもそもレザー自体の価格も高いです。
素晴らしい素材である一方、あらゆる面でコストが割高になりやすく商売の観点からみると旨味が少ないことが中々見かけない一因と思われます。
しかし、私たちアトリエシャークはサメ革専門のレザーブランドとして創作活動を続けていきます。
なぜなら、美しくて機能的な気仙沼産サメ革に深く魅了されたからです。
サメへの敬意を表し、レザーは最後の一片まで無駄なく活用します。そのためにプロダクトデザインの企画に一切妥協しません。
使う人の人生最良のレザーアイテムとなれることを目指し、今後も実用美を追求したプロダクトをお届けしてまいります。
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執筆:サメ兄(アトリエシャーク代表:時井 勇樹)
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